2002年6月号 考課表

作品作者
『黄昏の呪文』高遠砂夜+1
『二人のちび王女』榎木洋子-1
『皇帝陛下の黄色い夢』松井千尋+1
『魔女の結婚 アモールがささやく夜』谷瑞恵+1
『儀式』金蓮花0
『東方ウィッチクラフト 前略・神田川』竹岡葉月+1
『楽園の魔女たち しっぽの音楽会』樹川さとみ-1
『シンデレラ☆ゴー・ラウンド』南原兼0
『真紅の旗をひるがえせ』桑原水菜+2
『孵化界』なかじまみさを0
『きみが眠る薄青い柩』なかじまみさを-1
『黒色のエリカ』葛原亜紀0


『黄昏の呪文』:
『レヴィ・ローズ』のシリーズ番外作品だそうですが、本編と どう絡むのかはよく分かりません。 誇り高いけど周囲にあまり愛されていない魔術師の娘が、 旅の若者と出会い、独りで生きていく決意をするお話です。

このシリーズは読んだことなかったんですが、そこそこいい感じでしょうか。 お話の構図としてはちょっとシンプルかな?とも思いますけど、 短編で変に凝るといいことがないので、これくらいでもいいでしょう。 主人公が凛としているとお話が映えますね。いかにもコバルト。

『二人のちび王女』:
これもシリーズの一編で、王女と精霊と暴れる川のどたばた喜劇。

んー、これは雰囲気的に受け付けない感じです。ちょっと辛い。 キャラクターの共感度も高くなく、また物語の面白さの面からも それほど魅力の感じられるものはありませんでした。古いタイプのユーモア寄り 少女漫画っぽいかなあ、というか。 だから悪い、というわけではないですし、こういう需要もあるのかもしれませんが、 このように他の作品と並べてみると、どことなく違和感を覚えてしまいます。

『皇帝陛下の黄色い夢』:
これは独立した作品でしょうか? ある孤独な魔術師と、彼に共感を寄せる皇帝との、奇譚風味な友情物語です。

話が面白いし、魅力的。物語を紡ぐ力は抜きんでていると思います。 が、ちょっと語り口に不安なところがあるのが気になります。読んでいて 流れるような感じではなく、ところどころ「ん?」と止まってしまうというか。 こちらの感度の問題なんでしょうか。 とはいえ、読み応えのある作品です。「小説」が好きな人なら一読の価値あり。

『魔女の結婚 アモールがささやく夜』:
シリーズはもちろん、谷瑞恵さんの作品ってこれが始めて読むような気がします。 で、読んでみたのですが、この物語設定は、ある意味非常に面白いですね。 良くも悪くもCobalt的。「結婚願望ファンタジー」(ハシラに書かれたこのシリーズの 惹句)とはよく言ったもので、1500年の眠りから目覚めた巫女が「運命の人」なる結婚相手を 求めて魔術師と旅をするらしい。何かがすごすぎるような気がします。

で、この短編の方は、この二人がある屋敷の呪いを解くというお話で、 バランスのよい、素直な物語になっています。エレインの嫌味のない キャラクターがいいですね。

『儀式』:
これまたシリーズもので、若き王子が精霊の女王に振り回される話。

さすがというかなんといか、卒なく書けているように思います。が、 印象が薄いものになってしまっているような。ひょっとすると イラストのイメージが強すぎるというせいかも……。 あと、氷菓の話はけっきょくどうなったんでしょうか?

『東方ウィッチクラフト 前略・神田川』:
こちらはめずらしくシリーズを追いかけているですが、 非常にテンポとセンスがよい(逆に言えばこの二つにやや頼り気味のきらいもある) シリーズです。テンポに関しては、「東方WC」以外の彼女の作品にはあまり 見られなかったもので、最初はやや不安でしたが、シリーズが進むにつれ自然に なってきた感じです。

この作品は「身分に引き裂かれた男女」という古典的な設定を、 主人公格の二人が介在して成就させるというこれまた古典的なプロットで味付けしたものですが、 テンポとセンスは健在です。 ラストのひねりも別にどうということはないけれど嫌みがなくてさわやか。 これはある種(いい意味での)マンネリパターンが形成されているとも言えるので、 このまま続くのかなーと思った矢先のシリーズ終結宣言(『東方ウィッチクラフト 彼女は永遠の森で』 あとがき参照)には心底驚きました。本当に終わってしまうんでしょうか? ましろの 正体を明かした次の本でもう完結、というのはあまりにあまりなので、 もう少し伸ばしても良かったんじゃないかと思うんですが……って、関係ない話ですみません。

『楽園の魔女たち しっぽの音楽会』:
四人娘(魔女)たちのいる魔術師の塔に、「犬」のクロちゃんが現れて大騒ぎになる話。

えー、まあ、なんというか、これもちょっと口に合わない感じです。すみません。 人数が多い分、個々のキャラクターの魅力が出しにくいってのはあるかも しれませんが、それに加えてストーリーのひねりや伏線もあまりなく、 語り口も合わないので、私としては評価できないのでした。

『シンデレラ☆ゴー・ラウンド』:
『まほデミ』シリーズ(でいいのか?)の一編で、魔法のほうきと その持ち主との、一日だけのデートのお話。

ほうきの名前が「流れ星一番野郎☆」というのはすごいかも。 お話的には特にどうということもない感じです。なんていうか、 いわゆる二次創作っぽい、キャラクタSS小説みたいな感じでしょうか。

『真紅の旗をひるがえせ』:
『蜃気楼』シリーズの一編というか、サイドストーリー。ある贋作師のお話。

一言で言うと、「達者」な作品でした。 桑原水菜、そして「蜃気楼」というと、どうしてものやおいな側面が 話題になりがちなのですが、それを支える安定した実力も見逃せないところ じゃないのかなと、たまーに短編を読んだりすると思ったりします(本編の方は もうぜんぜん読んでません)。 ただ、読み手に訴えかける何か、という意味では、達者であればいいというわけでは ないかもしれません。難しい問題ですが……。

『孵化界』:
ノベル大賞受賞作。二人の女の子と男の奇妙な関係を通して、 少女の時代の終わりを描く、というところでしょうか。

うわー。これはすごく昔懐かしい雰囲気のような。 お話のプロットとしても、中編としてはシンプルなもので、それを 肉付けしているものは主人公の女の子の心理描写なわけですが、 これもなんか古風なひねり方のように思えてしまいます。思えるよね? (<ちょっと不安) 重苦しい感じではありますが、そういうのにも 免疫がある人にはいいのかも。こういうのが好きなひとは とっても気に入るのかもしれませんし。

『きみが眠る薄青い柩』:
ノベル大賞受賞第一作の短編で、母親に対する嫌悪感と、自分も母のような女になるのでは ないかという不安感に揺れる女の子のお話、純文学風味。

うーん、これもかなり辛いものが……。 なんていうか、こういうのが好きなんでしょうね。んで、編集部としては こういう方向性を支援してくんでしょうか。まあ、 いろんな路線があるのはいいのかもしれないのですが、どうなんでしょう。 私はちょっと否定的です。

『黒色のエリカ』:
第99回コバルト短編小説新人賞佳作。偶然出会った女の子が、 街で話題になっている小動物殺しの犯人ではないか? と疑う話。

話の語り方の基本がまだ習得できていないようにも見受けられます。確かに 光るところはあるかもしれませんけど。とはいえ、終わり方はちゃんと してるし、語りはこれから頑張って習得すればいいのでしょう(なんせ 作者は高校生)。だから佳作ということなのかも。

なお、タイトルはきれいですが、仕掛けはばればれです。ま、それでも 構わないという使い方のようにも思えますけど。